医療・心理関係者のためのマインドフルネス研修会

【医療・心理関係者のためのマインドフルネス研修会】@東京

2015年5月10日に,聖路加国際病院にて開催された,「医療・心理関係者のためのマインドフルネス研修会」に参加してきました.

仏教瞑想を基盤とした「マインドフルネス」は第三世代の認知行動療法として,心身医学や精神医学,また臨床心理学分野でも広くその効果が認められており,アメリカの主要な医学部の多くがマインドフルネスセンターを設けています.

ノーベル平和賞候補者にもなった禅僧 ティク・ナット・ハン師の教えを伝承する,『プラムヴィレッジ』(南仏)の僧侶団による1日のマインドフルネス研修会が5月10日に聖路加国際病院で開催されました.

今回,プラムヴィレッジによる実践的な内容が多かったのですが,研修会の最初に行われた聖路加国際病院精神腫瘍科部長の保坂隆先生による特別講義「臨床における瞑想の活用」の内容についてまとめてみました.興味のある方がいれば,ご覧いただければ幸いです.

※ プログラム内容

http://world-meeting.co.jp/mindfulness/

(1)担癌患者さんには「癌って死ぬんでしょ?怖いんです.」という人が沢山います.そのときは「癌って本当に死ぬと思っているんですか?本当は違うんですよ.」と説明をします.以下の2つの説明で7割くらいの人は納得します.

(2)(説明1)「日本では50%以上の方が癌になると言われています.実際に癌でなくなるのは30%なんです.引き算をすると20%の方が癌が治っているか,経過を見ている間に他の病気でなくなります.」

(3)(説明2)癌は慢性疾患のようだと思って下さい.糖尿病や高血圧と同じように,更に悪くならないように,病院で毎月,あるいは半年に一回見ていくんです.完全に良くなるわけではないけど,悪くならないようにみていきましょう.

(4)(説明2続き)糖尿病だって目が見えなくなったり,透析になったりするのが怖いので毎月通ったりしています.だから,同じように,癌も取りきれたというものの,再発しないように,転移しないように,病気と付き合っていきましょう.そういう意味では慢性疾患なんです.

(5)脳というのは,過去のことを考えると後悔のネタばかりを探すみたいです.将来のことを考えると,不安のことばかりを勝手に考えるみたいなんです.だから,考えるのは「今,ここ」しかないと思っていただきたい.

(6)脳は心臓や肺,肝臓と同じように臓器の1つに過ぎません.脳はあなた自身ではありません.脳からうまく自分を出して,外側から客観的に脳をみてください.「また私の脳が勝手にこんなこと考えている」みたいに,客観的に,他人事のように,脳を評価してみてください

(7)もし言える人なら,「私の脳さんありがとうね.私のためにいろいろ考えてくれてありがとうね.でも,たまには休んでいいのよ」と言うと,脳は「そうかな」と思うことがあるみたいです.

(8)「癌患者の堂々巡り」①私は癌になりました.②再発するのが怖いです.③色々なことが心配で暗くなるんです.④癌でなかったら私はもっと幸せだったのに.⑤癌でなければいいな.⑥でも,実際は癌になってしまった.(→ ① へ戻る)

(9)「堂々巡りからの脱却」人間の脳は,同時には2つの概念が走ることがなく,一個のことしか考えられない.何かに没頭すると,その期間,再発や転移のことを忘れることが多い.①料理,ガーデニング,②アイロンがけ,編み物.一番ハマるのは,③お風呂場のタイル磨き

(10)Meditationをしているときに,色々な雑念が浮かんでくる.雲の流れをみたときに,あ,これだと思った.雲は出てきてもやがて流れて消えていく.つまらない雑念が浮かんだ時も,やがて消えていくんだと思って,その雲をつかまえなければいい.

(11)流れている雲はただ眺めているだけで,つかまえなければ全然苦しくない.でも,人はついつい捕まえて考えてしまう.じーっと,そのような悲しい気持ちが起こっているということを,眺めていればいい.やがて消えていく,というのがMeditationだと思う.

(12)脳波やCTスキャン,fMRIなど使って,色々な研究が行われている.ある研究では,Meditationをすることによって,脳波上にGamma波が出ることがわかった.(Lutz. A, 2004) http://ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15534199

Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice.

Lutz. A et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Nov 16;101(46):16369-73.

(13)Meditationをしている人は,前頭前野という領域が有意に厚くなっていることがわかった.(Lazar. SW, 2005) http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1361002/

Meditation experience is associated with increased cortical thickness.

Lazar. SW et al. Neuroreport. 2005 Nov 28;16(17):1893-7.

(14)癌のことでいうと,meta-analysisやRCTの研究も沢山でている.マインドフルネスは乳がん患者の情緒状態に影響を与えるということが分かっている.

Mindfulness-based stress reduction for breast cancer—a systematic review and meta-analysis

Cramer. H et al. Curr Oncol. 2012 Oct; 19(5): e343–e352.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3457885/

Randomized controlled trial of mindfulness-based stress reduction (MBSR) for survivors of breast cancer

Lengacher. CA et al. Psychooncology. 2009 Dec;18(12):1261-72. doi: 10.1002/pon.1529.

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pon.1529/abstract;jsessionid=24D8B87199ABA218C0C13C13C4049743.f02t02

(15)まだ日本には医療の現場にマインドフルネスは入ってきていない.日本語では沢山の本や雑誌が出てきているので,興味のある人は勉強して下さい.

「マインドフルネス認知療法―うつを予防する新しいアプローチ」Mindfulness Based Cognitive Therapy for Depression(MBCT)の解説書.セッションごとに何をすべきかが明確に説明. amazon.co.jp/dp/4762825743

「マインドフルネスストレス低減法」ヴィパッサナー瞑想法を学んだ精神医学者(著者)が,医学的なエッセンスを万人むけのストレス対処法としてまとめたもの.宗教色を排して,セラピーとして瞑想法を取り扱っている分だけ実用的. amazon.co.jp/dp/4762825840/

「日経サイエンス 2015年1月号 特集:瞑想する脳」仏教など主要な宗教に取り入られている瞑想は脳科学の新たな研究領域として注目/瞑想の脳科学,マインドフルネスの効用について http://www.nikkei-science.com/page/magazine/201501.html

「瞑想する脳科学」単に信仰や宗教,New Age世代のアンチ体制向けシンボルとしての瞑想ではなく,西欧の英知と東洋のオーガニックな経験値が融合する可能性に対しての「瞑想」に,現時点で提示しうるベクトルを指し示した書籍. http://amazon.co.jp/dp/4062584999

「マインドフルネス・瞑想・坐禅の脳科学と精神療法」PETやSPECTやMRI、LORETAといった最新の測定機器を使用した瞑想時の脳状態についてのデータを掲載.どのように精神医学に活かすのか,有効なアプローチや症例ついて説明. http://amazon.co.jp/dp/4880024988

「仏教瞑想ガイドブック」季刊誌『サンガジャパン』の別冊,仏教瞑想の特集.日本では,瞑想といえば仏教が連想されるが,西洋仏教の中では,仏教瞑想はマインドフルネスとして,医療現場にも受け入れられている.(レビューより) http://amazon.co.jp/dp/4905425824

「新世代の認知行動療法」「こころの科学」に連載されていた「新世代の認知行動療法入門」をまとめた著作.マインドフルネス(禅仏教の呼吸や瞑想から宗教色を排したもの)の他,MCT(メタ認知療法)やBA(行動活性化療法)についても記載 http://amazon.co.jp/dp/4535983720

※ toggeter でまとめてみました

http://togetter.com/li/825130


Daily Mindful Portfolio

公衆衛生,地域医療,総合診療/慢性疼痛,依存症,生きづらさ,認知行動療法,マインドフルネス/ACLSインストラクター(JSISH-ITC),教育(インストラクショナル・デザイン),心理学,哲学,仏教 日々の記録を留めます